令和6年9月30日、長野県の松本少年刑務所内にある松本市立旭町中学校桐分校にて、鑑賞音楽会を開催しました。
桐分校は、全国で唯一、刑務所内に設置された学校です。
もう一度学び直したいと願う全国の受刑者が試験を受け、合格者が1年間、勉学に励んでいます。
■桐分校URL(松本市ホームぺージより)
https://www.city.matsumoto.nagano.jp/soshiki/185/2207.html
今回の鑑賞音楽会では、国内外で活躍するゴスペルグループ「THE SOULMATICS(ザ・ソウルマティックス)」 の公演を、
音楽の授業の一環として鑑賞していただきました。
生演奏の迫力と心を揺さぶる歌声に、桐分校の生徒たちは感動し、涙を流す姿が見られました。
演奏を届ける側のメンバーも、曲が進むにつれて込み上げる想いに涙し、
会場全体が深い感動に包まれました。刑務所の関係者の皆様からも、「感動した。」とのお声をいただきました。
■パンフレット
この鑑賞音楽会を通じて、「生きる力」 を育むとともに、「生の音楽」が持つ力の偉大さを改めて実感しました。
松本市立旭町中学校音楽科(桐分校主任)”矢野口 忍”先生のメッセージ
この度の刑務所内の音楽会を実現するにあたり、東京音楽鑑賞協会様のご理解とご協力、ご尽力により、受刑者である桐分校生5名のためだけに音楽会を開催していただきました。
まず音楽科授業の様子から考えた場合、当生徒たちは、何かを授業で鑑賞するとなると教室のテレビを使用する他方法はありません。また実際に歌唱等の実技では、生の音楽を聴いた記憶はあまり残っておらず、参考にするものはありません。ともすると、大きな声で歌うことで生まれる連帯感や自己満足で終わってしまいがちなのが現状です。しかしながら、松本少年刑務所には、旭町中学校本校の吹奏楽部生徒と共演する機会があったり、発表をする機会があったり、自分たちの歌を聴いてもらえるという利点がございます。
以上に加えて、今回の桐分校生のためだけに歌っていただける鑑賞音楽会が実現できたことで、生徒たちは「人の心に生で触れること」「人から熱いメッセージを直接受け取れること」「出所後、もう一度ちゃんと生き直したいと思えること」など、自ら犯した罪を心から反省すると共に、自分や周りの人を思いやるきっかけにもなっていたと感じます。
歌っていただいた「THE SOUMATICS」の皆様におかれましては、刑務所内でのステージということで難しい環境であることと、聴く側の特性も考慮され、たくさんの工夫を凝らしたステージを創っていただきました。歌声はもちろんのこと、真正面から向き合って歌われる姿には、聴く者全ての心が震え、止めどなく涙が流れました。私や刑務官がそうであるので、桐分校生にとっては、より深く感じていたと思います。
終演が近づくにつれ、SOULMATICSの皆様が涙を流されながら熱唱する場面では、音楽の持つ力に加えて、深い感情で受刑者(分校生)に寄り添っていただきました。互いの感情が重なり合う感動と心地よさは、別紙本人たちの感想文にあるように、新たに人生の構築を重ねる機会になったと思います。
長野舞台様におかれましても、SOULMATICS様のメッセージを増幅させていただくかのように、今回の環境でできる精一杯の音響や照明を駆使していただきました。時間や場所に制約がある中でしたが、5月の松本市中学校鑑賞音楽会と同じ熱量をもっておられたことにも、分校生や刑務官、もちろん私も感謝しております。
以上、雑駁ではありますが、関係各位に感謝申し上げますと共に、私事ですが、日頃音楽科として、本校の生徒とも音楽を通して様々な交流があり、音楽の持つ力を目の当たりにすることができました。今後の音楽教育にも活かしてまいりたいと改めて考えさせていただきました。ありがとうございました。
出演した「THE SOULMATICS」メンバーからの感想
■Saharu 人間の強さ、そして弱さの裏にある命の美しさを感じました
お話をいただいた時から今まで感じたことのない種類のプレッシャーを感じていました。
私たちの言葉や歌が皆さんが抱えている闇に果たして届くのだろうかと不安でもありました。
ですが、音楽の先生から直前に「生きていても意味がないと思っていた人が半分以上いる。そこから何とかここまできた。ぜひ生きたい!と思わせてやってください」という言葉をいただき、自分たちのミッションはいつもと変わらず心から希望のメッセージを届けることだなと邪念が振り払われた気持ちでした。
もう一度学びたい、変わりたいと中学校で勉強をすることを希望した皆さんが、何があって刑務所に入ったのか、やむにやまれぬ事情があった方もいるのだろうと想像して胸が苦しくなる瞬間もありましたが、楽しむ皆さんの姿を見て立ち上がる人間の強さ、そして弱さの裏にある命の美しさを感じました。
今思うとあんなに泣きながら誰かに歌を歌ったことは初めてでした。
決まりとして手を握ったり、そばで寄り添ったりという物理的に触れ合うことはできませんでしたが、歌で心と心がしっかりと繋がって、より深くお互いの存在を感じることができたのではないかと思います。
刑務官の方たちや先生や関係者の皆さんも涙されていて、私たちのメッセージを真剣に聴いてくださっていることも嬉しかったですし、何より分校生の皆さんへの想いを感じとても感動しました。
聖書の中に
「光は闇に輝いている。そして闇はこれに勝たなかった。」
という一説があります。
分校生の皆さんの命の光が闇の中にあっても輝き続けられるように、心から願っています。
■Shunkaku 今までにないくらい光と闇を感じる場所でした
受刑者達がどんな事をしてきたかは分かりませんが、それぞれが抱える闇をとても感じました。
それだけ生徒さんの笑顔、涙が美しかったからです。
どのような思いをしてあそこまで笑えるようになったのか、どれだけのものを乗り越えてきたのか。
もしかしたらまだ、心からの笑顔ではないかもしれない、まだ山の途中かもしれない、それでもとても輝いて見えました。
そして今まで1番涙を流したコンサートでした。
終わってからの座談会でも一人ひとりメッセージを頂き、「1人じゃないと思えた」「出会ってくれてありがとう」など心からの言葉を頂けました。
SOULMATICSにとっても新しい、素晴らしいステージになったと思います。
■Yukiya 今の現状を変えようと必死に生きて学んでいるのだなと感じました
自分自身過去少年院にいた経験があるので、桐分校生へのメッセージや伝え方など本当に悩みましたし、「これを言ったら嫌かなあ」など深く考えましたが、僕にできることは、僕の経験から自分の人生に光が差した日や、変わろうと思ったきっかけなどを誠心誠意伝え、少しでも自分たちの現状や未来に希望を感じてもらえるようにすることだと、自分が今回この場に来ている意味を再度整理し公演に挑みました。
最初は緊張していた生徒さんも徐々にほぐれて笑顔が見れたり、手拍子をしてくれたり、声を上げてくれたり、涙を流しながら見てくれていたり、みんな十分に今の現状を変えようと必死に生きて学んでいるのだなと感じました。
公演後の座談会では、「今回の公演を見て私は1人じゃないと思えた」、「自分たちのことを考えて、想いながらメッセージしてくれる人がいると感じたので本当に更生しなきゃいけないなと思った」など涙ながらに話してくれて、僕たちがきた意味があるなと思いましたし、皆様の未来を本当に信じて明るくなりますようにと心からそう思いました。
■Umi 皆さんの希望に、誰かの希望に歌い続けます
人生で初めての刑務所内でのステージ、本当はとても緊張していました。何故なら、生徒さんの皆さんのほとんどが人生の諸先輩方であり僕達には想像も出来ないようなバックグラウンドがある中、どんな言葉をかけて良いものかと、正直前日まで悩んでおりました。
ただ実際にステージに立ち、楽しむ皆さんの姿や感動し涙する姿を見て、僕はなんて愚かなことを悩んでいたのだろうとすぐ後悔しました。
皆さんが楽しんでくれるかどうか、僕らの歌が届くかどうかなど悩まなくても、皆さんは心から僕達の歌を受け取ってくれていました。皆さんの中にある悩みや苦しみを僕達にさらけ出してくれていました。それがとても嬉しかったです。
僕達はいつまでも皆さんのことを思い応援して居ます。そしてこれからも皆さんの希望に、誰かの希望に歌い続けます。
■Nanami あの瞬間は、とても温かく優しい空間に包まれていました
公演中は、私の不安もすぐに吹き飛ぶ程の温かい雰囲気に感動したと同時に、言葉に表せないような心にぐっとくるものがありました。皆さん本当に目を輝かせ笑顔で、そして私たちの言葉には頷きながら聞いてくれて、ステージを楽しんでくれました。私たちのオリジナル曲 "アキラメナイメロディー"では、『誰かがあなたの人生を諦めても、私たちはあなたを諦めない、皆さんの涙がいつか笑顔に変わるまでずっと歌い続ける』そんなメッセージを心こめて歌うと、私も止まらないほどの涙が溢れてきました。目の前をみると生徒の皆さん全員がハンカチで顔を覆い涙されていて、そして関係者の方々も涙されていました。あの瞬間は、とても温かく優しい空間に包まれていました。みんな誰も同じ人間であり、強さも弱さも持つ美しい人なんだと感じました。
刑務官の方から、『人を変えることは本当に難しい。でも今回は1つ大きなきっかけをもらったと思います』と『生徒たちには1人1人影がある、それを今回は、みなさんが否定するのではなく受け入れていただいた』そのようなお話を、私たちに仰っていただきました。今回の公演は、私にとっても人生を変える大きなきっかけをいただき、皆さんから本当に沢山の事をいただいたような気持ちです。皆さまにお会いできた事を心から感謝いたします。これからも沢山の方々へ音楽を通して心からメッセージを伝えていき、そして私たちの音楽で少しでも皆さんにエールを届けられるよう、ずっと歌い続けていきます。
■Luna 「出会ってくれてありがとう」と言ってもらえて心から音楽やっていて良かったなと思いました
私が本当に忘れられない事は”翼をください”を歌った際、手話で一緒に歌ってくれた事と、”アキラメナイメロディー”で最後に前に出た際皆さんが涙を流しながら聴いてくれて、私も本当に本当に涙が止まりませんでした。
また、普段とは違って終演後の座談会の際に直接感想を聞く事ができ、ある生徒さんが「私達と出会ってくれてありがとうございます」と言ってくれて心から音楽やっていて良かったなと思いました。
■Akane 人の心に届く音楽ってこれだと、私の思う音楽はこれだと心から感じました
私は人の心に届いてこそ音楽だと思っているので、上手く言葉を伝えられないなら彼女たちの心に届くような歌を心から歌おうと決めて今日の公演に参加しました。
私たちの目をしっかり見て、時には涙を流して聴いてくださるのがとても嬉しかったです。
人の心に届く音楽ってこれだと、私の思う音楽はこれだと心から感じました。
罪を犯してしまった人達かもしれないけど音楽を楽しむ権利は誰にでもあること、人間は皆平等なんだととても実感しました。
いつか社会に復帰した時どうか強く生きていってほしいと思います。
鑑賞した桐分校生の声
・ゴスペルを聴くのは初めてでしたが、歌声の響きやハーモニーの美しさを目の当たりにして、感動するばかりでした。ただ、どのように曲に乗ったり、盛り上げたりしたら良いのか最初はわかりませんでした。でも聴いているうちに身体が自然と動いていることに気づき、曲が進むにつれて涙が溢れている自分に驚きを感じました。私のこれまでの人生で「辛い」と感じたとき、いつも音楽に癒されてきました。また楽しい気持ちにもなれます。今回のステージは、これからの人生に立ち向かい、社会復帰を目指すために、より大きな気持ちの変化が生まれました。言葉にできない感動をありがとうございました。
・オリジナル曲「アキラメナイメロディー」は、「あきらめないでいい」「私は一人じゃないんだ」というメッセージが私の心に大きく突き刺さりました。それにメンバーの皆さんから「必ず良くなるから大丈夫!あきらめないで」と言ってもらえているような気がして、勇気をもらいました。桐分校に入学する決意をしたのは、社会復帰を目指し、もう一度自分の人生を立て直したい、そしてもう二度と刑務所にお世話になるようなことはしないと誓ったからです。それでもくじけそうになることもありましたが、皆さんの力強いメッセージをいただき、あきらめない気持ちが強まりました。皆さんと出会って本当に良かったです。ありがとうございました。
・曲の合間に、メンバーの皆さんの大切にしていることを聞く時間がありました。その中で私が一番印象に残っている言葉は、「自分に自信を持つふりをしていれば、自分に自信を持てるようになった」という言葉です。私は、人と関わることが苦手で、自分から一人の世界に閉じこもってしまうことが多いです。そのことにより、自分から人を避けてしまうことで、得られるものも少なかったように感じます。今回のステージでは、初めて聴くゴスペル音楽を、自分から受け入れることで、素直な気持ちになれたように思います。素直な気持ちがどれだけ大事かを教えていただき、新しい自分を発見したように思います。貴重な体験をありがとうございました。
松本少年刑務所長 中道 徹さまより
先日はお忙しい中、THE SOULMATICSの公演をして頂き、誠にありがとうございました。
人を愛する、あきらめず前を向いて生きるというメッセージ性のある質の高い音楽であるゴスペルを桐分校生に聞かせることができ、感受性の向上だけでなく更生の一助になったと確信しております。
ご支援くださった皆様のご紹介
最後になりますが、この公演は多くの方々のお力添えにより実現しました。
■『THE SOULMATICS』 の熱い歌声と心に響くメッセージを。
https://www.soulmatics.com/
■『株式会社長野舞台』様 には、音響・照明をボランティアでご提供いただきました。
http://www.butai.co.jp/index.html
■『アソシアード税理士法人』様 には、ご寄付という形でご支援をいただきました。
http://www.asociado.co.jp/group/group.html
皆様の温かい想いとご協力によって、この特別な時間を作り上げることができました。
心より感謝申し上げます。